趣味的音楽生活
リスナー歴20余年の音楽好きが、ひょっとすると住めば都かもしれない地方都市ここ岡山から、ジャンルを問わずその時々で気に入った作品を紹介いたします。アメリカンロックやSSW、ジャズから民謡、落語まで。気分次第で何でもアリ。
MARCIN WASILEWSKI TRIO/JANUARY
2月にこのブログで取り上げた作品の大半がECMのアルバムになってしまったのは一体どういうわけだろう。
小雪がちらほらと舞う寒い日が断続的に続き、休日でも外出するのが億劫で家に籠もっていることが多かったが、そのために気分のバイオリズムまで沈静化し、無意識のうちに静かな音楽を求めていたということなのだろうか。

MARCIN WASILEWSKI TRIO/JANUARY
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本作もそのタイトルが暗示するごとく、真冬の凍りついたような静けさを感じさせるピアノ・トリオ作品。
前々回取り上げたトーマス・スタンコのバッキングを受け持っていた、ポーランド出身のシンプル・アコースティック・トリオことマルチン・ボシレフスキ・トリオの今年になって発表された最新作。
曲はボシレフスキのオリジナルと、ゲイリー・ピーコックやトーマス・スタンコらのカバーが大半を占める中、プリンスのカバーが1曲、そして何故かエンニオ・モリコーネ作曲の映画『ニュー・シネマ・パラダイス』のテーマが収録されているのがフシギな取合せで、現代的なのか何なのかよくわからない。
もっとも2005年発表の前作でも、オリジナル曲やウェイン・ショーターらの曲に混じって、ビョークのカバーを確信犯的に忍ばせていた彼らのことだから、これぐらいの選曲では驚くに当たらないのかもしれない。

ボシレフスキの演奏は極めてエレガントなもので、選び抜かれた音を一つ一つ水滴のように空間に散りばめ、また丹念に連ねてゆく。
思索的というほど重く深刻なタッチではなく、もっと感覚的にひたすら心地良い響きを探りあてているような感じ。
ビートというものをほとんど感じさせないストイックでゆったりとした演奏が続くが、決して単調に流れず、絶妙の間の取り方と響きのコントロールによって驚くほど表情豊かな世界を構築している。
潤いに満ちた透明感の高いピアノの響きが心地よく、そのクールネスの純度はさながら奥深い山間に湧く清冽な名水のよう。ミネラルをたっぷり含んでいるに違いない。
あるいは酒に例えるならば、新潟の無糖酒「北雪」あたりの味わいに似ているだろうか。すっきりとして清らか、香り高くいつまでも飽きがこない。

残る二人もボシレフスキのピアノにぴったりと寄り添うように演奏を展開し、全体の調和を乱すようなところがない。特にミハウ・ミスキエヴィッツ(と、読むのだそうです)のドラムスはブラシを多用した抑制の効いたものだが、それでもここぞという時には絶妙のタイミングでキメの一打を入れてくれるので、聴いていてストレスがたまらない。

先述のジャンルを超えたカバー曲もまるっきり自分達流のスタイルに咀嚼した上で演奏しており、他の作品と並べても全く違和感なく調和している。プリンスの曲もオリジナルを聴いたことがないので何とも言えないが、本作の演奏に関してはフォーク調と言いたくなるほどの牧歌的な雰囲気が素晴らしく、素直に楽しめた。

最近のECMには、ノルウェーのトルド・グスタフセン・トリオや、イギリス出身のジョン・テイラー・トリオ、女流ピアニストのマリリン・クリスペルのトリオなど、活発な動きを見せているピアノ・トリオが少なくない。
確かにそれぞれに個性的でどれも十分に魅力的なのだが、しかし僕が聴いた範囲では、このマルチン・ボシレフスキ・トリオこそが、今もっとも将来を嘱目される3人ではないかと思う。
まだ全員が30代前半という若さだが、その成熟したセンスと技量は堂々たるもの。同郷のトーマス・スタンコが数年来彼らと行動を共にし続け、絶大な信頼を寄せているのも首肯できる。

吐く息が白くなくなるまで、もう暫らくの間、彼らの演奏に耳を傾けながら過ごす日が続きそうな気がする。


テーマ:JAZZ - ジャンル:音楽

KARLA BONOFF/LIVE
少し前の事になるけれども、久しぶりに思い切って大きな買い物をした。
と言って、まさか車や家の話ではない。

昭和46年発行の岩波書店版『荷風全集』全29巻。

数年来ずっと程度のいいものを探し続けていて、東京の古書店で今回ようやく納得のいくものを見つけることができたのでネット通販で購入した。
前所有者の方はほぼ購入時のままの状態で手放されたようで、全巻ぴかぴか。造本が小粋で、頬擦りしたくなるほど洒落ている。
平成になって新版が出版されて以来、この旧荷風全集は全国的に値崩れが続いているようだが、本来の正字正かな(旧字旧かな)づかいの荷風が読めるという意味で今でもかけがえのない価値をもっている。
なかなか腰を据えて読む機会は見つけられそうに無いが、しかし手元にいつでも存在しているというだけで心浮き立つものがある。

これでまたひとつ、隠居の楽しみが増えてしまった。

KARLA BONOFF/LIVE
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新譜の発表が途絶えたり最近の動向がさっぱり伝わってこなくても、常にその人のことが気にかかり、ことあるごとに思い出すアーティストがいる。

昨年、久々に新作を発表したカーラ・ボノフもその一人。
途中、ケニー・エドワーズやウェンディ・ウォルドマン、アンドリュー・ゴールドと組んだブリンドル名義の作品はあったものの、純然たるソロ作品としては実に19年ぶり。キャリア初となるライブ盤で2枚組の大作である。
ウエストコーストを代表するベテランの、しかもこれだけ話題性に富んだ作品であるにもかかわらず、国内盤が出る気配は全くない。しばらく様子を窺っていたが、とうとうしびれを切らしてUS盤を購入した。

2004年、カリフォルニアはサンタ・バーバラでの収録。なぜか一曲だけ2005年の東京公演の録音が含まれているのが目を惹く。
選曲は幅広く、ソロ・デビュー以前に組んでいた前述のブリンドル時代のレパートリーを始め、長いキャリアを総括するような内容になっている。
しかしいくらライブとは言え、88年以来のアルバムに新曲が数えるほどしかないというのは、ファンならずともちょっと物足りないのではないだろうか。
もっともカーラ本人の弁によると、曲なんて作ろうと思って作れるものではなく、どういうタイミングでインスピレーションが湧くかは全く予測がつかないのだと言う。今回、自主制作という形をとったのも、レコード会社から新曲を要請され続けるプレッシャーを回避したかったためだと言うから、旧曲が占める割合が多いのもむべなるかな、である。

そもそも今回ライブ盤を発表しようと思い立ったのは、演奏活動を続けるうちに古くからのレパートリーがいい感じに熟成されてきたことが大きな理由になっていると言う。
しかし彼女の場合、昔から曲そのもののグレードが高く、最初から完成されている作品が少なくないため、一聴したところそれほど劇的な変化は感じられない。むしろライブならではのシンプルなアレンジが施されたことによって、初期の頃に感じられた生硬さやデリケートすぎる部分がほどよく中和され、親しみやすさが増したような印象を受ける。
例えてみれば、ノーブルで高潔なイメージが圧倒的だった高嶺の花が、手を伸ばせばぎりぎり届きそうな距離にまで近づいてきてくれたとでも言えようか。

旧友ケニー・エドワーズらによる演奏は曲の持ち味を大切にした丁寧なもので、これ見よがしなところが微塵もない。テクニックが飛びぬけて秀でているわけでもないが、それが気にならないのは長年一緒に演奏してきた彼らだからこそ出せる味わい深さの所以か。
リード・ギターを担当しているニーナ・ガーバーは、カーラ・ボノフと共演するようになる以前はやはり女性SSWのケイト・ウルフの片腕として活躍していたとも聞く。この人の奏でるクリーンで伸びやかなエレキ・ギターの響きが、本作の雰囲気をぐっとコンテンポラリーなものにしている。

しかし意匠がいかに変化しようとも、主役であるカーラ・ボノフその人の歌声の魅力だけは昔とほとんど変わらない。
凛として気高く、可憐にして清々しい。
年輪を重ねた分、ニュアンスも一層複雑になったようだ。
70年代のウエスト・コーストが生んだ、最も普遍的な魅力に溢れた声と才能の持ち主の一人だと思う。

本作を聴いていると、ただ徒らに過ぎ去った我が青春の日々を思い出し、ほろ苦く感傷的な気分になってしまう。
僕のような後追いの世代ですらそうなのだから、オールド・ファンの心境やいかばかりであろう。

などとあれこれ考えていたら、カーラ・ボノフ来日の報せが飛び込んできた。
メンバーは本作とほぼ同じ布陣だが、ドラムレスの編成になっている。
ライブ出不精の僕としては、実に悩ましいニュースで困った困った。


テーマ:洋楽 - ジャンル:音楽

TOMASZ STANKO QUARTET/LONTANO
いやあ、美しい。

先ごろ芥川賞を受賞した川上未映子さん。
これほど狂おしいまでに剥き出しの粘膜のような女らしさを感じさせる美女に出会ったのは本当に久しぶり。
ぽってりした肉厚の唇なんか、まるでそこだけ別の意思をもった軟体動物のようだ。
週刊文春のグラビアに、体温が伝わってくるような生々しい艶姿で登場しているのを見て、悩殺されました。
もちろん小説の方も才気とパワーにあふれたものらしくこちらも期待十分。
今後の動向に注目、です。

TOMASZ STANKO QUARTET/LONTANO
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イタリアを代表するトランペッターの後は、東欧のトランペッターにも触れておこう。

エンリコ・ラヴァ同様に最近はECMから作品を発表しつづけているポーランドのトーマス・スタンコ(ポーランド読みではトマシュ、が正解らしい)による2006年の作品。
バッキングは若手ピアニストのマルチン・ボシレフスキを中心に結成されたシンプル・アコースティック・トリオが担当している。

ポーランドのジャズと言えば、『水の中のナイフ』などロマン・ポランスキーの映画音楽で知られるクシシュトフ・コメダの名前を思い出すが、スタンコはかつて彼の作品ばかりを集めたアルバムを発表したこともあるほどのコメダ好き。本作でも引き続き彼の作品を1曲取り上げている。

エンリコ・ラヴァが静かな中にもどこかラテン的な開放感を潜めているのに対し、トーマス・スタンコにはそういう外向的な雰囲気が全く感じられない。
全篇にわたりひたすら内面に沈潜していくような、スタンコならではの耽美的かつダークな演奏が繰り広げられる。
こう書くとドロドロした陰惨なジャズを想像されそうだが、実はそれほど暗いわけでもない。確かに一聴しただけでリスニング・ルームの空気が重く淀んでくるようなねっとりとした質感はあるのだが、屹立したリリシズムによって演奏が支えられているので決して口当たりは悪くない。
水晶のように硬質で透明、そして冷厳なほどクールな演奏とでも言えようか。

スタンコのトランペットの響きは繊細な反面、愛想がなくそっけない。
したがって最初はとっつきにくい印象を抱きがちなのだが、じっくり付き合って行くうちにどんどん味わいが増してくる。
冷たいのに妙にソウルフル。
静かな演奏の中に、ぎりぎりまで張り詰めた緊張感が漲っている。
この辺りが一度クセになるとなかなか抜け出せないスタンコの魅力だろうか。

このメンバーによる録音も3作目とあって、息もピッタリ。どこを切っても血が噴き出るような緊密なアンサンブルを聴かせる。バックの演奏はまだ30歳そこそこという若い連中だが、なかなか侮れない。
特に本作ではスタンコが引っ込んで、演奏をトリオにまかせている部分が少なくなく、その分シンプル・アコースティック・トリオの力量を存分に堪能することができる。

録音はいつものレインボー・スタジオ(オスロ)ではなく、南フランスのスタジオを使用。しかし、クオィティは高く、見事にECMの音になっている。

日本にどのくらいファンが存在するのか全く見当がつかないのだけれど、個人的に最も注目しているジャズ・ミュージシャンの一人です。


テーマ:JAZZ - ジャンル:音楽

ENRICO RAVA & STEFANO BOLLANI/THE THIRD MAN
この日曜日は、日本漢字能力検定協会による検定試験、漢検2級を受験するため、側近とともに岡山理科大学へ出かけた。
別に合格したからといって特にいいことがあるわけじゃないけど、これもまあ一種の遊びのつもり。
試験会場の教室に入り、机上に伏せた問題用紙を前にして答案開始までの時間を過ごしているうちに、昔の大学時代を思い出して懐かしい気持ちになった。
その瞬間、俄かに頭の中がタイムスリップして、底冷えのする真冬の京都、煤けた板張りの床を踏みしめながら、声が小さくて聴き取りにくい老教授の講義をぼんやりと聞いている20歳そこそこの自分が居た。
サルトルにメルロ=ポンティ、そしてハイデガー。
この歳になって、束の間とは言え学生気分に浸るのも悪くないと思った。

ENRICO RAVA & STEFANO BOLLANI/THE THIRD MAN
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昨年の春に来日したイタリアの名トランペッターと気鋭の若手ピアニストによるデュオ作品。
これまでもトリオやカルテットなどによる共演は何度も果たしている二人だが、完全なデュオでのスタジオ録音はこれが初めてだと思う。

曲目を眺めると、アントニオ・カルロス・ジョビンやモアシル・サントスらの曲を取り上げているのが目をひく。
しかし実際に聴いてみると、最近流行りの俗流ボッサ・ジャズにありがちな単純なアプローチとは全く趣を異にすることがすぐにわかる。
涼しげ、というよりむしろ肌寒さを感じるほど静謐で超クールな演奏。
二人とも決して饒舌な表現に流れようとせず、互いが奏でる一音一音を尊重し合いながら青白い炎のようなインタープレイを繰り広げる。
水面を走り広がる波紋のような緊張感と静寂に包まれた音楽はいかにもECMらしいが、そこはかとなく淡いサウダージ感覚が漂うのがまた格段に美しい。
全7曲が収録されているエンリコ・ラヴァのオリジナルは、一部フリー寄りのアヴァンギャルドなタッチのものも含まれてはいるが、やはり鮮烈な印象を残すのはスローで落ち着いた曲調の作品。
ラヴァ独特のエアリーで艶やかなトランペットの響きが麗しく、節回しも婀娜な色っぽさに溢れている。
一方、ステファノ・ボラーニのピアノにはクラシカルな雰囲気があり、ソロの部分に集中しているとまるでドビュッシーを聴いているかのような錯覚を起こす。滲んだような和声の響きと繊細にして優美なタッチが作品に一層の気品を与えている。

二人の共演歴は既に10年を超えるはずだが、親子ほどある年の差もなんのその、阿吽の呼吸で見事なパートナーシップを発揮する。エンリコ・ラヴァがステファノ・ボラーニを高く評価している理由も、ここでの演奏を聴けば素直に納得できるだろう。

ECMと言えばその録音の良さにも感心させられるのが常なのだが、本作のオーディオ的なクオリティも圧倒的。とりわけエコーの処理は際立って素晴らしい。この作品のように、音と音をつなぐ間が重大な役割を果たす音楽においては、エコーはもはや単なる付帯残響音と言うより、トランペットとピアノに次ぐ第3の主役とも言うべき地位を獲得している。この録音処理なくしては本作の魅力も半減だろう。

去年の来日ステージを見ることは叶わなかったが、自室で深夜、この音にじっと耳を傾ける事さえできれば僕は満足です。


テーマ:JAZZ - ジャンル:音楽